Offersでは、あらゆる業界の開発スペシャリストをお招きし、これまでのキャリアや経験を深ぼることで、企業を超えて開発の実践知をつなぐ「#開発の実践知をつなぐ」というインタビュー企画を行っております。
第3回では、研究員からスタートアップ畑を歩んでこられた株式会社DataLabsでCTOを務める佐藤氏をお招きし、これまでのキャリアやそこから見えるこれからのエンジニアに必要なことを深掘りします。
DataLabs株式会社 取締役CTO 佐藤大輔氏
広島県尾道市出身。酒とバッティングセンターとハイキングが趣味。 京都大学で物理の博士号を取得後、海外で5年間ポスドクとして研究に従事。 その後、東大数学発AIベンチャーで研究開発・受託開発(分野は画像認識・3Dデータ処理・機械学習・ロボティクス)を行い、2020年4月より同社のCTOに就任。採用・エンジニアリングのプロセス改善などの全社的な活動も行った。 2022年4月にCTOとしてDataLabs株式会社に参画。
物理の博士研究員からエンジニアへ転身
元々私は、理論物理の研究をしており、2013年に京都大学で博士号を取得しました。その後、海外で物理の研究をするために5年間博士研究員(ポストドクター)として、アメリカ、イタリア、ドイツと周りながら研究をしておりました。
2018年にこのまま研究者として生計を立てていくことは難しいと思ったことをきっかけに東京に戻り、AIベンチャーであるArithmer株式会社(以下、Arithmer)に入社しました。そこでは4年間AIエンジニア兼リサーチャーとして働き、うち後半の2年間はCTOを勤めていました。そこでは機械学習を用いたシステム開発の研究を行っていましたが、受託案件がメインだったこともあり、だんだんと製品開発にも携わってみたいという気持ちが強くなり、現職DataLabsに2022年よりCTOとして入社することを決めました。
DataLabsでのメインのミッションは「製品の開発の指揮をとる」ことです。私自身は、ResearchとDevelopmentでいうとResearch寄りのスキルセットや経験を持っており、3Dデータ処理・画像処理・機械学習・ロボティクスなどの分野のR&Dを行った経験があります。エンジニアの人数はまだそこまで多くはないので、組織マネージメントもやりつつ、プレイングマネージャーとして研究開発もやっているような感じですね。
DataLabsは、建築業界向けのサービスを提供しています。中でもメインとなるサービスは、「Modely」という3次元配筋検査ツールです。
レーザー光を照射し、その反射光の情報を元に対象物の形を計測するLiDAR(Light Detection And Ranging)や、ある対象を撮影した複数枚の写真から、形状を復元させるSfM(Structure from motion)という技術で3Dデータ(点群)を計測することができるのですが、このサービスでは点群から3次元モデルを自動生成することで、鉄筋の配筋検査における検査項目の実測値を推定し、配筋検査の省力化を行います。
Modelyの画面
スタートアップがエンジニアとしての始まり
スタートアップに入ったきっかけは、そんな立派なきっかけではなくて(笑)。元々物理という浮世離れした分野で研究をしていたので、スタートアップや大手企業がどう違うのかなどよく分かっていませんでした。入社のきっかけも、当時お世話になっていた理研という研究機関の先生に紹介してもらい、ご縁があって前職のスタートアップ企業に入社しました。
理学系からだと最近ではデータサイエンティストやコンサルなどがキャリアパスとしては多いので、私のようにエンジニアの道を選ぶ人も少ないかと思います。私も最初からスタートアップにいきたい、という感じではありませんでした。とりあえずスタートアップでやってみようと思ったことがエンジニアとしての始まりでした。
でも結果入ってみて、今では結構自分にはスタートアップが合ってるなと思っています。
「結果を残し続けること」がスキルアップにつながる
基本的には「与えられた仕事をやって結果を出す」以外にはなく、それが一番スキルを磨くためにはいいのではないかと自分自身では感じています。
私の場合、特に前職では受託案件を一つ一つこなして、自社や顧客企業が求めるような成果を可能な限り出し、それで評価していただく、というスタイルで仕事を行ってきましたが、その過程で自分のエンジニアリング技術を向上させることができたと感じています。
一時期、自分で開発の勉強をしていたこともありましたが、やはり一番得るものがあったのは「与えられたタスクで結果を出すこと」だと感じています。前職は受託で現職は製品開発ですが、その考えは変わりません。製品開発なら製品開発で製品の成長によりどんどん新しい課題が出てきますし、受託は受託で課題が出てきますので。
少数精鋭チーム体制のカギは、個々の「自走する力」
現在DataLabsでは、10名のエンジニアが在籍しており細かいチーム分けがされています。
プロダクトは、「Modely」と半年前にリリースした「Hatsuly(ハツリー)」の2つがあります。
Hatsulyは、3次元データや帳票を発注者と共有することができ、オンライン上ではつり検査を完了できるサービスです。プロダクトごとにチームを作っており、それぞれ3人ずつエンジニアが所属しています。Modelyの開発チームは、私がリーダーを兼務しておりまして、Hatsulyの方は別にリーダーを立てています。
それとは別に、3Dデータの処理方法に関する研究開発が必要なプロダクト群なので、R&Dチームを作っていて、そこのチームメンバーが研究開発を担当するような体制にしています。
製品開発チームに1チームにつき3人、R&Dチームに2人と、人数は多くありません。そのため、マネージャーがどうしても「プレイングマネージャー」にならざるを得えません。マネージメントにフルコミットができないので、マネージメント体制がすごく整っているような大きいチームや大きい企業に比べると各メンバーがある程度自走してもらわないと回らないというのが状況ですね。
DataLabsはスタートアップということもあり、プロダクトの機能を作るときに要件が明確に決まっていないことが多いです。要件をチームリーダーやビジネスサイドの方で可能な限り明確にしようと要件定義をしますが、曖昧な部分が結構残ってしまうことも多々あります。しかしそういう状況であっても、「要件が不明確です。」と突き返すのではなく、可能な限り自分で要件定義を行い、どうしても分からないところは仮説に基づいて作ってしまってリリースしてからフィードバックを聞きまた変更していく、という「手を止めないこと」が大事だと思っています。DataLabsでは、難易度が高いR&Dであっても、諦めずにいろいろな手法を速いスピードで試し続けています。
プロダクトやチーム、会社にとって何が良いことなのかを考え、行動できる「自走する力」はエンジニアには不可欠だと考えています。
その他、手厚い支援・育成体制ではないですが、ドキュメントをNotion上に整えたり、属人性の少ない開発プロセス(コードレビュー・unittest・CI/CD)を構築したり、Slackの活用により、リモートであっても極力情報が共有されるようにしています。GitHub Issuesなどを活用した、TiDD(Ticket Driven Development)な開発プロセスを推進するなど、入社してすぐキャッチアップできるような仕組みづくりやリモートでの体制を整え、マネージメントを行うようにしています。
これからのエンジニアのキャリアの変化について
リモートワークの普及・副業の一般化により、フリーランスに近い働き方・稼ぎ方になる方が出てくるかと思います。副業を行うことで、転職をしなくても他の会社・チームのやり方を体験することができ、知見が広まるという面はあると思います。また、正社員として転職する前に、会社にマッチするかをお互い見極めるためのお試し期間として使うこともできます。
ただ、どうしても稼働時間が短いため、やったことのない技術領域を勉強しながら成果を出す、という事は難しいかもしれません。そのため、既に習熟している技術領域だけをやることになりがちです。一長一短ですね。副業を今から始めようとしている方は、その点を考えたほうがいいかもしれません。
また、これは今に始まった話ではないと思いますが、エンジニアというのは転職の頻度が高い職種です。エンジニアとしてのキャリアを作っていく上で、必要なスキルや経験などを業務の中で得ようと考えて動いている方が多いと思います。そのような方は、転職を行う際に、給与などの条件面に加えて、その会社で働くことで何が得られるかを重視しますし、またそうすべきだと思います。弊社としても、採用ではその点を提示するようにしています。
- 佐藤さんありがとうございました。
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